
歯科矯正を検討する際、費用の負担は大きな懸念材料となります。
成人の矯正治療では70万円から100万円以上、子どもの矯正でも30万円から70万円程度の費用がかかるとされており、決して安い投資ではありません。
しかし、医療費控除の仕組みを活用することで、実質的な負担を数万円から十数万円程度軽減できる可能性があることをご存じでしょうか。
本記事では、歯科矯正の医療費控除で実際にどのくらい税金が戻るのか、具体的な計算方法や年収別のシミュレーション、申請時の注意点まで詳しく解説します。
矯正治療を始める前に知っておくべき重要な情報をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
歯科矯正の医療費控除で戻る金額の結論

歯科矯正の医療費控除で実際に戻る金額は、数万円から十数万円程度が一般的な目安とされています。
ただし、これは支払った矯正費用全額が戻るわけではありません。
還付される金額は、医療費控除額×所得税率で計算され、さらに翌年度の住民税も軽減されるという二段階の仕組みになっています。
具体的な還付額は以下の要素によって大きく変動します。
- 矯正治療にかかった費用の総額
- その年の他の医療費
- あなたの年収(課税所得)に応じた所得税率
- 保険金などで補填された金額の有無
例えば、年収400万円の方が矯正費用を含めて年間30万円の医療費を支払った場合、所得税の還付額は約4万円、さらに翌年度の住民税が約2万円軽減され、トータルで約6万円程度の負担軽減が見込まれるとされています。
また、矯正費用が100万円と高額で、所得税率が20%の方の場合、所得税の還付額は約18万円、住民税の軽減も含めると合計で27万円前後の負担軽減になるケースもあると説明されています。
重要なのは、医療費控除は「支払った医療費がそのまま戻る」制度ではなく、「所得から控除額を差し引くことで税金が軽減される」制度であるという点です。
したがって、所得税率が高い方(年収が高い方)ほど、還付される金額も大きくなる傾向があります。
なぜ医療費控除で税金が戻るのか

医療費控除の基本的な仕組み
医療費控除は、日本の税制において納税者とその家族の医療費負担を軽減するために設けられた制度です。
1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が一定額を超えた場合、その超えた部分を所得から差し引くことができます。
まず、医療費控除の対象となるのは、10万円を超えた医療費が基本となります。
ただし、総所得金額が200万円未満の方については、総所得金額の5%を超えた部分が控除対象となります。
計算式は以下のようになります。
医療費控除額=(1年間に支払った医療費の合計−保険金等で補填された額)−10万円
※総所得200万円未満の場合は「10万円」の代わりに「総所得×5%」
※医療費控除額の上限は200万円
所得控除による税金軽減の原理
医療費控除は「所得控除」の一種です。
所得控除とは、税金を計算する際の基礎となる所得から一定額を差し引く仕組みを指します。
例えば、年収500万円で課税所得が300万円の方が、医療費控除額50万円を適用した場合、課税所得は250万円に減少します。
この減少した課税所得に対して税率をかけるため、結果として納める税金が少なくなるのです。
所得税率による還付額の違い
日本の所得税は累進課税制度を採用しており、所得が高いほど税率も高くなります。
所得税率は以下のように設定されています。
- 課税所得195万円以下:5%
- 課税所得195万円超〜330万円以下:10%
- 課税所得330万円超〜695万円以下:20%
- 課税所得695万円超〜900万円以下:23%
- 課税所得900万円超〜1,800万円以下:33%
- 課税所得1,800万円超〜4,000万円以下:40%
- 課税所得4,000万円超:45%
医療費控除による所得税の還付額は、医療費控除額×所得税率で計算されます。
つまり、同じ医療費を支払っても、所得税率が高い方ほど還付される金額が大きくなるということです。
住民税も軽減される理由
医療費控除は所得税だけでなく、住民税にも適用されます。
所得税の確定申告を行うと、その情報が自動的に市区町村に伝達され、翌年度の住民税の計算にも医療費控除が反映される仕組みになっています。
住民税の税率は所得に関係なく一律10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。
したがって、医療費控除額の約10%分が翌年度の住民税から軽減されることになります。
例えば、医療費控除額が60万円の場合、住民税は約6万円軽減されるという計算になります。
確定申告による還付の流れ
医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。
会社員の方で通常は年末調整で税務処理が完了している場合でも、医療費控除を受けるためには自分で確定申告を行う必要があります。
確定申告を行うと、払いすぎた所得税が還付される形で指定した銀行口座に振り込まれます。
一方、住民税については還付ではなく、翌年度の住民税が減額される形で恩恵を受けることになります。
つまり、医療費控除による経済的メリットは二段階で実現します。
- 確定申告後、数週間から1〜2か月程度で所得税が還付される
- その年の6月から翌年5月までの住民税が軽減される
年収別・費用別の具体的なシミュレーション

ケース1:年収400万円・矯正費用30万円の場合
年収400万円(課税所得約200万円、所得税率10%)の方が、矯正費用を含めて年間30万円の医療費を支払ったケースを考えてみましょう。
計算手順
ステップ1:医療費控除額の計算
医療費控除額=30万円−10万円=20万円
ステップ2:所得税の還付額
所得税還付額=20万円×10%=2万円
ステップ3:住民税の軽減額
住民税軽減額=20万円×10%=2万円
合計負担軽減額:約4万円
このケースでは、実質的に30万円の医療費が約26万円の負担で済むことになります。
ケース2:年収600万円・矯正費用100万円の場合
年収600万円(課税所得約350万円、所得税率20%)の方が、矯正費用100万円を支払い、他に医療費がなかったケースです。
計算手順
ステップ1:医療費控除額の計算
医療費控除額=100万円−10万円=90万円
ステップ2:所得税の還付額
所得税還付額=90万円×20%=18万円
ステップ3:住民税の軽減額
住民税軽減額=90万円×10%=9万円
合計負担軽減額:約27万円
このケースでは、実質的な矯正費用の負担が約73万円になるとされています。
高額な矯正治療でも、医療費控除を活用することで大きな経済的メリットが得られることがわかります。
ケース3:年収300万円・矯正費用70万円の場合
年収300万円(課税所得約150万円、所得税率5%)の方が、子どもの矯正治療で70万円を支払ったケースを見てみましょう。
計算手順
ステップ1:医療費控除額の計算
医療費控除額=70万円−10万円=60万円
ステップ2:所得税の還付額
所得税還付額=60万円×5%=3万円
ステップ3:住民税の軽減額
住民税軽減額=60万円×10%=6万円
合計負担軽減額:約9万円
所得税率が低い場合でも、住民税の軽減効果により一定の経済的メリットが得られることがわかります。
ケース4:年収800万円・矯正費用85万円の場合
年収800万円(課税所得約500万円、所得税率20%)の方が、矯正費用を含めて年間85万円の医療費を支払ったケースです。
計算手順
ステップ1:医療費控除額の計算
医療費控除額=85万円−10万円=75万円
ステップ2:所得税の還付額
所得税還付額=75万円×20%=15万円
ステップ3:住民税の軽減額
住民税軽減額=75万円×10%=7.5万円
合計負担軽減額:約22.5万円
このように、矯正費用が高額で所得税率も高い場合、20万円を超える負担軽減も十分に可能とされています。
シミュレーションから見える傾向
これらの具体例から、以下の傾向が見えてきます。
- 矯正費用が高額であるほど、医療費控除額も大きくなり、還付額も増加する
- 所得税率が高い(年収が高い)方ほど、所得税の還付額が大きくなる
- 所得税率が低くても、住民税の軽減効果は一律10%で得られる
- 一般的には、数万円から十数万円、場合によっては20万円以上の負担軽減が見込める
ただし、これらはあくまで目安であり、実際の還付額は個々の状況によって異なることに注意が必要です。
医療費控除の対象となる歯科矯正の条件

治療目的であることが大前提
歯科矯正が医療費控除の対象となるためには、治療目的であることが必須条件とされています。
国税庁も、歯列矯正について「発育段階にある子どもの成長を阻害しないようにするための歯列矯正」や「歯列不正を治療するための矯正」は医療費控除の対象となると明示しています。
具体的には、以下のような症状や目的の矯正が治療目的と判断されるケースが多いとされています。
- 不正咬合(かみ合わせの異常)の改善
- 発音障害の改善
- 咀嚼機能の改善
- 顎の成長・発育に関わる問題の改善
- 顎関節症などの症状緩和
審美目的の矯正は対象外
一方で、見た目の美しさだけを追求する審美目的の矯正は、医療費控除の対象外となります。
国税庁も「容ぼうを美化するための費用」は医療費控除の対象外と明記しています。
ただし、実際には治療目的と審美目的の境界線は曖昧な場合もあります。
多くの歯科医院では、診断書や治療計画書に治療の必要性を明記してくれるため、医療費控除の適用を受けやすくなっているとされています。
子どもの矯正は基本的に対象
子どもの成長期における矯正治療は、基本的に治療目的と判断されるケースが多いとされています。
これは、成長期の子どもの歯列不正を放置すると、顎の発育や永久歯の生え方に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
したがって、小児矯正や成長期の咬合誘導は、医療費控除の対象となる可能性が高いと考えられます。
成人の矯正も対象になるケース
成人の矯正治療についても、治療目的であれば医療費控除の対象となります。
成人であっても、かみ合わせの問題や顎関節症などの症状がある場合、その改善を目的とした矯正治療は医療費控除を受けられるとされています。
マウスピース矯正(インビザラインなど)についても、治療目的であれば医療費控除の対象になると説明しているクリニックが増えています。
診断書の重要性
医療費控除の申請において、歯科医師による診断書や治療計画書は重要な証明書類となります。
これらの書類に「不正咬合の改善」「咀嚼機能の回復」など、治療の必要性が明記されていることが望ましいとされています。
確定申告時には診断書の提出は必須ではありませんが、税務署から問い合わせがあった場合に備えて保管しておくことが推奨されています。
医療費控除の対象となる費用・ならない費用
対象となる費用の範囲
歯科矯正における医療費控除の対象となる費用は、治療に直接必要な費用とされています。
対象となる主な費用
- 矯正装置の費用(ワイヤー矯正、マウスピース矯正など)
- 検査・診断料
- 調整料(定期的な通院時の調整費用)
- 抜歯などの付随的な治療費
- 処方された医薬品の費用
- 通院のための交通費(公共交通機関)
- 子どもの通院に付き添う保護者の交通費
特に注意したいのは、通院のための交通費も医療費控除の対象となる点です。
バスや電車などの公共交通機関を利用した場合の交通費は、領収書がなくても記録を残しておけば控除対象とすることができます。
対象にならない費用
一方で、以下のような費用は医療費控除の対象外となります。
- 審美目的のホワイトニング費用
- 自家用車で通院した場合のガソリン代・駐車場代
- 予防目的の歯科検診費用
- 健康診断の費用
- 医師や歯科医師への謝礼
ローンやクレジットカードで支払った場合も、実際に支払った年の医療費として計上することができます。
ただし、金利や手数料は医療費控除の対象外となります。
家族の医療費も合算できる
医療費控除は、納税者本人だけでなく、生計を一にする家族全員の医療費を合算して申請することができます。
例えば、父親が確定申告をする場合、母親や子どもの医療費も含めて申請できます。
家族全員の医療費を合算することで、10万円の足切りラインを超えやすくなるというメリットがあります。
デンタルローンの扱い
矯正治療は高額なため、デンタルローンを利用するケースも多いです。
デンタルローンを利用した場合、ローン契約が成立した年に全額を医療費として計上することができるとされています。
つまり、実際に毎月支払いを続けている最中でも、契約した年に全額を医療費控除の対象とすることが可能です。
ただし、この場合もローンの金利・手数料は対象外となります。
医療費控除の申請方法と必要書類
確定申告の時期と方法
医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。
確定申告の期間は、毎年2月16日から3月15日までとされています。
確定申告の方法は以下の3つがあります。
- 税務署の窓口で直接申告
- 郵送による申告
- e-Tax(電子申告)による申告
近年では、e-Taxによる電子申告が推奨されており、マイナンバーカードとICカードリーダーがあれば、自宅から簡単に申告できるようになっています。
必要な書類の準備
医療費控除の申請には、以下の書類が必要とされています。
- 確定申告書
- 医療費控除の明細書
- 源泉徴収票(会社員の場合)
- 本人確認書類(マイナンバーカードまたは通知カード+身分証明書)
以前は医療費の領収書をすべて提出する必要がありましたが、現在は医療費控除の明細書に必要事項を記入すれば、領収書の提出は不要となっています。
ただし、領収書は5年間保管する義務があり、税務署から求められた場合には提示できるようにしておく必要があります。
医療費控除の明細書の書き方
医療費控除の明細書には、以下の情報を記入します。
- 医療を受けた人の氏名
- 医療機関の名称
- 医療費の区分
- 支払った医療費の額
- 保険金などで補填された金額
歯科矯正の場合、医療費の区分は「診療・治療」に該当します。
矯正治療費、調整料、検査費用などを分けて記入する必要はなく、年間の合計額をまとめて記入することができます。
5年間遡って申請できる
もし過去に医療費控除を申請し忘れていた場合でも、5年間遡って申請することができます。
これを「還付申告」といい、確定申告期間に関係なく、いつでも申請することが可能です。
例えば、2023年に矯正治療を開始したが医療費控除の申請を忘れていた場合、2028年まで申請することができます。
申請時の注意点
医療費控除の申請において、いくつか注意すべき点があります。
- 領収書は必ず保管しておく(5年間)
- 医療費の支払いは原則として領収書に記載された日付で計上する
- クレジットカードで支払った場合も、決済日ではなく医療機関に支払った日で計上する
- 保険金で補填された金額がある場合は、必ず差し引く
- 通院の交通費は、日付・区間・金額を記録しておく
特に、矯正治療は数年にわたることが多いため、毎年きちんと領収書を整理し、記録を残しておくことが重要です。
まとめ:歯科矯正の医療費控除で賢く負担を軽減
歯科矯正の医療費控除で実際に戻る金額は、一般的に数万円から十数万円、場合によっては20万円以上となることがあります。
還付額は、医療費控除額に所得税率をかけた金額が所得税から還付され、さらに翌年度の住民税も軽減されるという二段階の仕組みになっています。
重要なポイントをまとめると以下のようになります。
- 医療費控除額=(年間医療費−保険金等)−10万円
- 所得税還付額=医療費控除額×所得税率(5〜45%)
- 住民税も医療費控除額の約10%分が軽減される
- 治療目的の矯正であれば医療費控除の対象となる
- 子どもの矯正は基本的に対象、成人も治療目的なら対象
- 矯正費用だけでなく、通院交通費なども対象となる
- 確定申告が必要で、5年間遡って申請できる
矯正治療は高額な投資ですが、医療費控除を活用することで実質的な負担を大きく軽減することができます。
所得税率が高い方ほど還付額も大きくなるため、特に高所得の方にとってはメリットが大きい制度と言えます。
医療費控除は自動的に適用されるものではなく、自分で確定申告をして初めて恩恵を受けられる制度です。
せっかくの権利を活用しないのはもったいないことです。
医療費控除を活用して矯正治療を始めましょう
歯科矯正は、見た目だけでなく、かみ合わせや口腔機能の改善にもつながる重要な治療です。
費用面での不安から治療を躊躇している方も多いかもしれませんが、医療費控除を活用することで、実質的な負担を数万円から十数万円軽減できる可能性があります。
まずは、以下のステップから始めてみてください。
- 歯科医院で相談し、治療が必要かどうか診断を受ける
- 治療計画と費用の見積もりを確認する
- 医療費控除でどのくらい戻るか概算を計算する
- 治療を開始したら、領収書をしっかり保管する
- 翌年の確定申告期間に医療費控除を申請する
医療費の領収書は治療を受けるたびにしっかり保管し、通院交通費も記録しておくことが大切です。
デジタルで管理したい方は、スマートフォンのアプリなどを活用するのも良いでしょう。
矯正治療は、あなたの健康と笑顔への投資です。
医療費控除という制度を賢く活用して、経済的な負担を軽減しながら、理想的な歯並びと口腔機能を手に入れてください。
不明な点があれば、歯科医院や税務署、税理士に相談することをお勧めします。
多くの歯科医院では、医療費控除に関する相談にも応じてくれますので、遠慮なく質問してみましょう。