
歯並びが悪いせいで、食事中や会話中に頬や舌を噛んでしまうという悩みを抱えている方は少なくありません。
痛みを伴うだけでなく、繰り返すことで口内炎ができたり、食事を楽しめなくなったりと日常生活に支障をきたすこともあります。
このような症状を改善するために矯正治療を検討する際、多くの方が気になるのが「保険は適用されるのか」という点でしょう。
この記事では、歯並びが悪くて口の中を噛んでしまうケースにおける保険適用の条件、具体的な適用パターン、さらには2025年度の制度改正による最新情報まで、詳しく解説していきます。
口の中を噛む症状と保険適用の基本的な関係

まず結論から申し上げますと、歯並びが悪くて口の中を噛んでしまうという症状だけでは、基本的に保険適用の矯正治療を受けることは困難とされています。
日本の医療保険制度において、歯列矯正治療は原則として自由診療扱いとなっており、見た目の改善や軽度の不快感の解消を目的とした治療には保険が適用されないのが現状です。
ただし、医学的に明らかな機能障害があると診断された場合や、特定の疾患に起因する咬合異常の場合には保険適用となる可能性があります。
具体的には、顎変形症、厚生労働大臣が定める先天性疾患、永久歯の萌出不全による咬合異常などが該当します。
また、2025年度の診療報酬改定により、学校健診で歯列・咬合の異常を指摘された子どもの矯正相談については保険適用となる制度が開始されました。
これは相談に対する保険適用であり、実際の矯正治療費全額が保険でカバーされるわけではありませんが、保険診療の範囲が少しずつ拡大している傾向にあると言えます。
なぜ口の中を噛む症状だけでは保険適用にならないのか

日本の保険制度における矯正治療の位置づけ
日本の健康保険制度は、病気や機能障害の治療を目的とした医療行為に対して適用されるという基本原則があります。
歯列矯正に関しては、見た目を良くすることを主目的とした美容的な治療とみなされるケースが多く、そのため多くの矯正治療が自由診療として扱われています。
口の中を噛んでしまうという症状は確かに不快なものですが、保険制度の観点からは「日常生活に重大な支障をきたす機能障害」と判断されるかどうかが重要な分かれ目となります。
機能障害の判断基準
保険適用が認められる機能障害とは、具体的には以下のような状態を指します。
- 食べ物を十分に咀嚼できない咀嚼障害がある
- 飲み込みが困難な嚥下障害がある
- 発音が著しく不明瞭になる構音障害がある
- 顎関節に痛みや開口障害などの機能障害がある
- 顎の骨格に明らかな変形がある
単に「口の中を噛みやすい」というレベルでは、医学的に治療が必要な機能障害とは認定されにくいのが実情です。
ただし、頻繁に噛むことで潰瘍ができたり、咀嚼に支障が出ていたりする場合には、歯科医師による詳細な診断を受けることで保険適用の可能性を検討できることがあります。
不正咬合の分類と保険適用の関係
歯並びの問題は専門的には「不正咬合」と呼ばれ、さまざまなタイプに分類されます。
例えば、上顎前突(出っ歯)、下顎前突(受け口)、開咬(前歯が噛み合わない)、叢生(歯が重なり合っている)などがあります。
これらの不正咬合のうち、骨格的な問題が原因で重度の機能障害を引き起こしているものについては、保険適用の対象となる可能性があります。
一方、歯の位置だけの問題で骨格に異常がない場合や、軽度の不正咬合の場合は、保険適用外となることがほとんどです。
保険適用となる具体的な3つのパターン

パターン1:厚生労働大臣が定める先天性疾患に起因する咬合異常
第一のパターンは、生まれつきの疾患が原因で歯並びや噛み合わせに問題が生じている場合です。
厚生労働大臣が指定している先天性疾患は複数あり、代表的なものには以下のようなものがあります。
- 唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)
- ゴールデンハー症候群
- ダウン症候群
- 鎖骨頭蓋異骨症
- クルーゾン症候群
- トリーチャ・コリンズ症候群
これらの疾患に起因する咬合異常については、医学的に治療の必要性が明確であるため、保険適用で矯正治療を受けることができます。
診断には専門的な検査が必要となりますので、該当の可能性がある場合は、大学病院や指定の医療機関での受診が推奨されます。
パターン2:永久歯の萌出不全(埋伏歯)による咬合異常
第二のパターンは、永久歯が正常に生えてこない状態(埋伏歯)が原因で咬合異常が生じている場合です。
具体的には、前歯や小臼歯の永久歯が3本以上埋伏しており、「埋伏歯開窓術」という外科的処置が必要なケースが該当します。
埋伏歯開窓術とは、歯茎を切開して埋まっている歯を露出させ、矯正装置で引っ張り出す処置のことを指します。
このような外科処置を伴う矯正治療については、医学的必要性が認められるため保険適用の対象となります。
ただし、すべての埋伏歯が保険適用になるわけではなく、埋伏している歯の本数や位置、治療の必要性などが総合的に判断されます。
パターン3:顎変形症(外科手術が必要なレベルの咬合異常)
第三のパターンは、顎の骨格に明らかな変形があり、外科手術が必要と診断された場合です。
顎変形症とは、上顎や下顎の骨の大きさや位置に問題があり、著しい咬合異常や顔貌の変形を引き起こしている状態を指します。
例えば、開咬(前歯が噛み合わず、奥歯だけで噛んでいる状態)で骨格に原因がある場合や、重度の下顎前突、上顎前突などが該当します。
顎変形症と診断されると、顎離断などの外科手術と、その前後の矯正治療が保険適用となります。
治療の流れとしては、まず手術前矯正で歯の位置を調整し、その後に全身麻酔下で顎の骨を切断・移動する手術を行い、最後に手術後矯正で仕上げるという段階を踏みます。
顎変形症の治療は、指定された医療機関(大学病院や認定された矯正歯科医院)でのみ保険適用で受けることができます。
保険適用となる具体的なケース事例

事例1:開咬による咀嚼障害で顎変形症と診断されたケース
27歳の女性Aさんは、前歯が全く噛み合わず、食事の際には常に奥歯だけで噛んでいる状態でした。
麺類を噛み切ることができず、食事に時間がかかるだけでなく、頬の内側を頻繁に噛んでしまうという悩みも抱えていました。
歯科医院を受診したところ、骨格性の開咬であり、咀嚼機能に明らかな障害があると診断されました。
大学病院の口腔外科を紹介され、精密検査の結果、顎変形症と正式に診断されました。
この場合、外科手術を伴う矯正治療が必要となりますが、保険適用で治療を受けることができました。
治療期間は約3年を要しましたが、自己負担額は自由診療と比較して大幅に抑えることができたとされています。
事例2:唇顎口蓋裂による咬合異常のケース
生まれつき唇顎口蓋裂のあった10歳の男児Bくんは、乳幼児期に口蓋形成術などの外科手術を受けていました。
しかし、永久歯が生え揃う時期になっても歯並びが著しく悪く、上顎の成長不足により受け口になっていました。
このケースでは、厚生労働大臣が定める先天性疾患(唇顎口蓋裂)に起因する咬合異常として、保険適用での矯正治療が可能でした。
治療は専門の矯正歯科医と口腔外科医が連携して行い、成長段階に合わせた長期的な治療計画が立てられました。
先天性疾患による咬合異常の場合、早期からの継続的な治療が必要となることが多く、保険適用によって経済的負担が軽減されることは患者家族にとって大きな支えとなります。
事例3:学校健診で指摘された子どもの相談ケース
2025年度の制度改正により、新たな保険適用のパターンが生まれました。
小学5年生のCさんは、学校の歯科健診で「歯列・咬合の異常」を指摘され、健康診断の結果のお知らせを受け取りました。
両親がこのお知らせを持参して矯正歯科専門医を受診したところ、相談料については保険適用で受けることができました。
専門医の診断では、Cさんの歯並びは矯正治療が望ましいものの、顎変形症などには該当せず、実際の矯正治療自体は自由診療となることが説明されました。
ただし、早期に専門医の診断を受けることで、適切な治療開始時期や治療方法についての助言を得ることができ、将来的な治療計画を立てる上で有益だったとされています。
この制度改正は、矯正治療そのものの保険適用を拡大するものではありませんが、早期発見・早期相談を促進する意味で重要な変更と言えます。
噛み合わせ調整と矯正治療の違い
保険適用される噛み合わせ調整とは
「噛み合わせ治療」と「矯正治療」は混同されやすいのですが、保険適用の観点からは明確に区別されます。
噛み合わせ調整とは、既存の歯の高さを削って調整したり、被せ物やブリッジで噛み合わせを改善したりする治療を指します。
これらの処置は、保険診療の範囲内で行われることがあります。
例えば、虫歯治療で入れた詰め物が高すぎて噛み合わせに違和感がある場合、その調整は保険適用で行えます。
また、部分入れ歯やブリッジなどの補綴治療についても、保険診療の範囲内の材料を選択すれば保険適用が可能です。
矯正治療との本質的な違い
一方、矯正治療は歯を動かして歯列全体の配置を変える治療であり、そのアプローチ方法が根本的に異なります。
ブラケットやワイヤーなどの矯正装置を使用して、数ヶ月から数年かけて徐々に歯を移動させていく治療です。
この矯正治療については、前述した3つのパターン(先天性疾患、埋伏歯、顎変形症)に該当しない限り、原則として自由診療となります。
したがって、「口の中を噛む」という症状を改善するために保険診療を希望する場合、まずは噛み合わせ調整や補綴治療で対応可能かどうかを検討することになります。
保険適用の矯正治療を受けるための手順
まずは一般歯科での相談から
口の中を頻繁に噛んでしまう症状がある場合、まずはかかりつけの一般歯科医院で相談することをお勧めします。
一般歯科医が診察することで、その原因が歯並びだけの問題なのか、他の要因(虫歯、親知らず、顎関節症など)も関係しているのかを判断できます。
また、歯並びが原因である場合でも、保険適用の可能性があるケースかどうかの初期判断をしてもらうことができます。
専門医療機関への紹介
保険適用の矯正治療が必要と判断された場合、一般歯科医から専門医療機関への紹介状を書いてもらうことになります。
保険適用の矯正治療を行える医療機関は限られており、以下のような施設が該当します。
- 大学病院の矯正歯科・口腔外科
- 指定自立支援医療機関(育成・更生医療)の指定を受けた矯正歯科医院
- 顎口腔機能診断施設の指定を受けた矯正歯科医院
これらの施設では、精密検査や診断を行い、保険適用の条件に該当するかどうかを正式に判定します。
診断と治療計画の立案
専門医療機関では、レントゲン撮影、CT検査、顎運動検査、咬合検査など、詳細な検査が行われます。
これらの検査結果をもとに、顎変形症などの診断が確定すれば、保険適用での治療が可能となります。
治療計画には、治療期間、使用する装置、外科手術の有無、予想される治療費などが含まれます。
保険適用の場合でも、3割負担で数十万円程度の自己負担が発生することが一般的ですが、自由診療と比較すると大幅に費用を抑えることができます。
保険適用外の場合の選択肢
自費診療での矯正治療
保険適用の条件に該当しない場合でも、歯並びを改善して口の中を噛む症状を解消したいという希望がある場合は、自費診療での矯正治療を選択することができます。
自費診療の矯正治療には、以下のような方法があります。
- ワイヤー矯正(表側矯正・裏側矯正)
- マウスピース矯正(インビザラインなど)
- 部分矯正(気になる部分だけを治す)
費用は治療方法や期間によって大きく異なりますが、一般的には30万円から150万円程度とされています。
医療費控除の活用
自費診療での矯正治療であっても、診断により治療の必要性が認められた場合は医療費控除の対象となることがあります。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告によって所得税の一部が還付される制度です。
特に子どもの歯列矯正については、発育段階にあることを考慮して医療費控除が認められやすい傾向にあります。
成人の場合でも、咀嚼障害など機能的な問題がある場合は医療費控除の対象となる可能性がありますので、診断書を取得しておくことをお勧めします。
分割払いやデンタルローンの利用
自費診療の矯正治療費は高額になることが多いため、多くの矯正歯科医院では分割払いやデンタルローンに対応しています。
デンタルローンを利用することで、月々の負担を抑えながら治療を受けることが可能になります。
金利や返済期間は金融機関によって異なりますので、複数の選択肢を比較検討することが推奨されます。
まとめ:保険適用の可能性を正しく理解することが重要
歯並びが悪くて口の中を噛んでしまうという症状に対して、保険適用で矯正治療を受けられるかどうかは、その原因と程度によって大きく異なります。
基本的には、単に歯並びが悪い、口の中を噛みやすいというだけでは保険適用にはならず、自由診療となるのが原則です。
しかし、以下の3つのパターンに該当する場合には、保険適用での矯正治療が可能となります。
- 厚生労働大臣が定める先天性疾患に起因する咬合異常
- 永久歯の萌出不全(埋伏歯)による咬合異常
- 顎変形症(外科手術が必要なレベルの咬合異常)
また、2025年度の制度改正により、学校健診で歯列・咬合の異常を指摘された子どもの矯正相談については保険適用となりました。
これは治療そのものではなく相談に対する保険適用ですが、早期に専門医の診断を受けられる機会が広がったという意味で重要な変更です。
保険適用の可能性があるかどうかを判断するためには、まずはかかりつけの歯科医院で相談し、必要に応じて専門医療機関への紹介を受けることが第一歩となります。
仮に保険適用の条件に該当しない場合でも、自費診療での矯正治療や、医療費控除の活用など、経済的負担を軽減する方法はいくつか存在します。
あなたの症状改善への第一歩を踏み出しましょう
口の中を噛んでしまうという症状は、日常生活において大きなストレスとなります。
食事のたびに痛みを感じたり、口内炎が繰り返しできたりすることで、生活の質が低下してしまうことも少なくありません。
保険適用の可否にかかわらず、まずは専門家に相談することで、あなたの症状の原因を正しく理解し、最適な治療法を見つけることができます。
保険適用の条件に該当する場合は、経済的負担を抑えながら専門的な治療を受けることができますし、該当しない場合でも様々な治療オプションや費用軽減の方法が用意されています。
「費用が高そうだから」と諦めてしまう前に、ぜひ一度歯科医院で相談してみてください。
あなたの症状に合った解決方法が必ず見つかるはずです。
健康で快適な口腔環境を取り戻すための第一歩を、今日から踏み出してみませんか。
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