
子どもの歯並びが気になる保護者の方にとって、矯正治療以外に何かできることはないだろうかと考えることは自然なことです。
近年、歯科医療の現場では「歯並びチューブトレーニング」という方法が注目を集めています。
これは、やわらかいゴムやシリコン製のチューブを噛むことで、顎の成長や口周りの筋肉を鍛え、将来的な歯並びの改善や予防を目指すトレーニング方法です。
本記事では、チューブトレーニングの仕組みから具体的な実践方法、期待できる効果、そして注意すべきポイントまで、科学的な根拠に基づいて詳しく解説していきます。
歯並びチューブトレーニングは顎と筋肉を育てる機能訓練です

歯並びチューブトレーニングとは、やわらかいチューブやリング状の器具を噛むことで、顎の骨の成長を促し、咀嚼筋や口周りの筋肉を鍛える機能訓練の一種です。
このトレーニングは、矯正装置のように歯を直接動かすものではなく、歯が正しく並ぶための「土台づくり」を目的としています。
主に3〜5歳の幼児期から混合歯列期(乳歯と永久歯が混在する時期)の子どもを対象とし、バイオセラピー(機能訓練)の一環として位置づけられています。
代表的な器具として「パナリング」と呼ばれる専用のトレーニング器具があり、1日3〜10分程度の使用が推奨されているとされています。
チューブトレーニングは、顎の成長を促進し、永久歯が並ぶスペースを確保することで、将来的な不正咬合(歯並びや噛み合わせの問題)の予防や改善をサポートする役割を果たします。
チューブトレーニングが効果的な理由

歯並びチューブトレーニングがなぜ効果的とされているのか、その理由は大きく分けて3つの側面から説明することができます。
顎の骨の発育を刺激するメカニズム
まず第一に、チューブを噛む動作が顎の骨に適切な刺激を与え、成長を促すという点が挙げられます。
現代の食生活では、やわらかい食べ物が増え、子どもたちの噛む回数が減少している傾向にあります。
咀嚼回数の減少は、顎の骨への刺激不足を招き、結果として顎が十分に発達しないまま永久歯が生えてくるという状況を生み出します。
顎のスペースが狭いと、永久歯が正しい位置に並ぶことができず、歯並びのガタガタや叢生(そうせい)と呼ばれる状態になりやすくなります。
チューブトレーニングでは、意図的にしっかりと噛む動作を繰り返すことで、咬筋や側頭筋などの咀嚼筋を使い、顎の骨に適切な負荷をかけることができます。
この刺激により、特に乳歯列期から混合歯列期の成長期にある顎の骨が、本来持っている成長能力を十分に発揮できるようサポートするとされています。
口周りの筋肉バランスを整える効果
第二に、舌、唇、頬などの口周りの筋肉のバランスを整える効果があります。
歯並びは、歯そのものだけでなく、それを取り巻く筋肉の力のバランスによって大きく影響を受けます。
例えば、舌の位置が正しくない場合(低位舌)や、口呼吸の習慣がある場合、唇の力が弱い場合などは、歯が外側や内側に倒れてしまう原因となります。
チューブトレーニングでは、単に噛むだけでなく、舌の先をチューブの上にのせて上顎に押し付けながら行う方法が推奨されています。
これにより、舌が本来あるべき正しい位置(上顎に軽く接触している状態)を学習し、嚥下(飲み込み)時の舌の動きも改善されるとされています。
さらに、しっかりと口を閉じて噛むことで、口輪筋(唇を閉じる筋肉)も鍛えられ、口呼吸から鼻呼吸への改善も期待できます。
咀嚼機能全体の向上による自然な歯並びの形成
第三に、咀嚼機能全体が向上することで、本来の噛む機能が使えるようになり、歯並びが自然と整いやすくなるという点です。
正常な咀嚼機能とは、前歯で食べ物を噛み切り、小臼歯で噛み砕き、大臼歯ですりつぶすという一連の動作がスムーズに行われることを指します。
これらの機能が正しく働くことで、歯には適切な方向から適切な力がかかり、歯が本来あるべき位置に誘導されていきます。
チューブトレーニングは、この咀嚼機能を高めるための基礎トレーニングとして機能し、日常の食事での噛み方の改善にもつながるとされています。
また、しっかり噛むことは顎関節の健全な発達にも寄与し、長期的な口腔機能の健康維持にも役立つと考えられています。
チューブトレーニングの具体的な実践方法

チューブトレーニングには、使用する器具や目的に応じて、いくつかの具体的な方法があります。
パナリングを使用した基本的なトレーニング方法
パナリングとは、オーラルアカデミーが販売する専用のトレーニング器具で、前歯用と臼歯(奥歯)用の2種類があります。
パナリングを使用した基本的なトレーニング方法は以下の通りです。
- 前歯用パナリングの使い方:前歯でリングを挟み、舌の先をリングの上にのせます。舌を上顎に押し付けながら、「1、2、3」でギュッと噛み、「4」で口をパッと開ける動作を繰り返します。
- 臼歯用パナリングの使い方:奥歯でリングを噛み、同様に舌を上顎に押し付けながら、リズミカルに噛む動作を繰り返します。
- トレーニング時間:1日3〜10分程度を目安とし、過度なトレーニングは避けることが推奨されています。
- 頻度:毎日継続することが重要ですが、顎や歯に痛みを感じた場合は中止し、歯科医師に相談する必要があります。
トレーニング中は、軽く3回噛んだ後、強く噛んでゆるめるという動きを取り入れることで、筋肉に適度な負荷をかけることができるとされています。
一般的なチューブを使用したトレーニング方法
パナリング以外にも、やわらかいシリコン製のチューブや専用のトレーニングチューブを使用する方法もあります。
基本的な方法は以下の通りです。
- チューブを前歯または奥歯で噛み、ギューッと力を入れて噛みしめます。
- 数秒間その状態を保った後、パッと口を開いてチューブを離します。
- この動作を1日数分、毎日継続します。
重要なポイントは、前歯・奥歯・舌の位置などを意識しながら行うことであり、専門家の指導のもとで適切なフォームを学ぶことが効果的とされています。
日常の食事と組み合わせたトレーニング
チューブトレーニングは、あくまでも補助的なトレーニングであり、日常の食事での「よく噛む習慣」が最も重要な基礎となります。
各歯科クリニックでは、以下のような食事指導を共通して推奨しています。
- 大きめに切った食材を使用し、前歯で噛み切る動作を促す
- ある程度歯ごたえのある食材(根菜類、肉類、繊維質の多い野菜など)を積極的に取り入れる
- 一口の量を少なくし、よく噛んで食べる習慣をつける
- やわらかいものばかりではなく、噛みごたえのあるおやつ(小魚、ナッツ、するめなど)も取り入れる
チューブトレーニングは、こうした日常的な食事だけでは足りない噛む回数や咬合力を補う「補助器具」として位置づけられています。
チューブトレーニングで期待できる具体的な効果

チューブトレーニングを継続することで、どのような効果が期待できるのか、具体的な事例を交えて解説します。
事例1:永久歯が並ぶスペースの確保
6歳前後の混合歯列期に入る前の子どもに対して、チューブトレーニングを継続的に行うケースです。
乳歯の段階で顎が狭く、永久歯が生えるスペースが不足していると予測される場合、3〜5歳の時期からチューブトレーニングと食育を組み合わせることで、顎の成長を促すことができるとされています。
具体的には、以下のような効果が報告されています。
- 上顎骨・下顎骨の適切な成長により、歯列弓(歯が並ぶアーチ)が広がる
- 永久歯が生えてくる際に、自然と正しい位置に誘導される可能性が高まる
- 将来的な抜歯矯正のリスクが軽減される
ただし、これは個人差が大きく、すべてのケースで矯正治療が不要になるわけではないという点には注意が必要です。
事例2:口呼吸から鼻呼吸への改善
口呼吸の習慣がある子どもは、常に口が開いているため、口輪筋(唇を閉じる筋肉)が弱く、歯が前方に突出しやすくなります。
チューブトレーニングでは、口をしっかり閉じて噛むことを繰り返すため、口輪筋が鍛えられ、自然と口を閉じる習慣が身につくとされています。
具体的な効果としては、以下が挙げられます。
- 口唇閉鎖力(口を閉じる力)の向上
- 鼻呼吸への移行により、口腔内の乾燥が防がれる
- 前歯の突出(上顎前突)の予防や改善
- 風邪やアレルギー性疾患のリスク軽減(鼻呼吸による免疫機能の向上)
口呼吸の改善は、歯並びだけでなく全身の健康にも良い影響を与える可能性があるとされています。
事例3:矯正治療後の後戻り予防
矯正治療を終えた後も、舌癖や口周りの筋肉バランスが改善されていないと、歯並びが元の状態に戻ってしまう「後戻り」が起こることがあります。
チューブトレーニングは、矯正治療後のバイオセラピーの一環として用いられることもあり、以下のような効果が期待されています。
- 舌の正しい位置の維持
- 口周りの筋肉バランスの維持
- 正しい咀嚼パターンの定着
- リテーナー(保定装置)との併用による後戻り予防効果の向上
矯正治療で得られた歯並びを長期的に維持するためには、機能的な側面からのアプローチも重要であるという認識が広がっています。
事例4:集中力や顎関節の健全な発達
しっかりと噛むことは、脳への血流を増加させ、集中力や記憶力の向上にも寄与するという研究結果があります。
チューブトレーニングを継続することで、以下のような副次的な効果も報告されています。
- 学習時の集中力の向上
- 顎関節の健全な発達と機能の向上
- 咀嚼筋のバランスの良い発達により、顔貌の左右対称性が保たれる
- 正しい姿勢の維持(噛み合わせと姿勢は密接に関連しています)
これらの効果は、歯並びという視点を超えて、子どもの全身の健康と発達にも良い影響を与える可能性があるとされています。
チューブトレーニングの注意点と限界
チューブトレーニングは多くのメリットがある一方で、正しく理解しておくべき注意点や限界も存在します。
専門家の指導を受けることの重要性
パナリングの公式情報では、必ず専門家の指導のもとで訓練を行うことが明記されています。
自己流で行うと、以下のようなリスクがあるとされています。
- 誤った噛み方により、顎関節に負担がかかる
- 過度なトレーニングによる筋肉疲労や痛み
- 舌の位置が正しくない状態でのトレーニングでは、期待する効果が得られない
したがって、小児歯科や矯正歯科の専門医に相談し、適切な指導を受けた上で開始することが推奨されます。
過度なトレーニングの回避
トレーニング時間は1日3〜10分程度が目安とされており、それ以上行うことは推奨されていません。
過度なトレーニングは以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 顎関節症のリスク
- 筋肉の過緊張による頭痛や肩こり
- 歯や歯茎への過度な負担
痛みやアレルギー症状などが現れた場合は、すぐに中止して歯科医師に相談する必要があります。
チューブトレーニングだけでは改善できないケース
チューブトレーニングはあくまで機能訓練・予防・補助であり、すべての不正咬合に対応できるわけではありません。
以下のようなケースでは、矯正治療が必要になることが多いとされています。
- すでに強い叢生(歯のガタガタ)がある場合
- 骨格性の不正咬合(上顎前突、下顎前突、開咬など)が顕著な場合
- 顎の成長がほぼ終わっている思春期以降の場合
- 遺伝的要因が強い不正咬合の場合
これらのケースでは、チューブトレーニングは矯正治療の補助として用いられることはあっても、単独で歯並びを整えることは困難である点を理解しておく必要があります。
継続することの難しさ
どのようなトレーニングでも、効果を得るためには継続が必要です。
特に子どもの場合、毎日のトレーニングを習慣化させることは容易ではありません。
以下のような工夫が推奨されています。
- 楽しみながらできるよう、歌やゲームと組み合わせる
- 親子で一緒に行う時間を作る
- 達成シートやご褒美制度などのモチベーション維持の仕組みを作る
- 歯科医院での定期的なフォローアップを受ける
継続できなければ効果は得られないという点を保護者も理解し、サポート体制を整えることが重要です。
まとめ:チューブトレーニングは顎と筋肉を育てる有効な機能訓練
歯並びチューブトレーニングは、やわらかいチューブやパナリングなどの器具を噛むことで、顎の成長を促し、咀嚼筋や口周りの筋肉を鍛える機能訓練です。
主に3〜5歳の幼児期から混合歯列期の子どもを対象とし、永久歯が並ぶスペースを確保し、将来的な不正咬合を予防する効果が期待されています。
このトレーニングは、矯正装置のように歯を直接動かすものではなく、歯が正しく並ぶための土台づくりを目的としています。
具体的には、1日3〜10分程度、専用のチューブやパナリングを使用し、前歯や奥歯で噛む動作を繰り返します。
その際、舌を上顎に押し付けるなど、正しいフォームで行うことが重要であり、専門家の指導を受けることが推奨されます。
期待できる効果としては、顎の骨の成長促進、口周りの筋肉バランスの改善、口呼吸から鼻呼吸への改善、矯正治療後の後戻り予防、集中力の向上などが挙げられます。
ただし、すでに強い不正咬合がある場合や顎の成長が終わっている場合には、チューブトレーニングだけでは改善できず、矯正治療が必要になるという限界も理解しておく必要があります。
また、過度なトレーニングは顎関節や筋肉に負担をかける可能性があるため、適切な時間と頻度を守り、痛みやアレルギー症状が現れた場合はすぐに中止することが重要です。
チューブトレーニングは、日常の食事での「よく噛む習慣」と組み合わせることで、より高い効果が期待できるとされています。
大きめで歯ごたえのある食材を積極的に取り入れ、しっかりと噛んで食べる食育が基本であり、チューブトレーニングはそれを補助する役割を担います。
小児矯正専門や予防歯科志向のクリニックでは、バイオセラピーの一環として、チューブトレーニング、ガムトレーニング、舌トレーニングなどを組み合わせた総合的なアプローチが広がっています。
家庭でも取り組めるトレーニングとして、保護者向けの情報発信も増えており、楽天市場などのECサイトでも専用器具が販売されているなど、一般家庭でのセルフケア需要も見られます。
しかし、自己流ではなく、必ず歯科医師の指導のもとで開始し、定期的なフォローアップを受けることが成功の鍵となります。
お子さまの健やかな成長のために
歯並びは、見た目の美しさだけでなく、噛む機能、発音、全身の健康にも深く関わる重要な要素です。
チューブトレーニングは、お子さまの顎と口周りの筋肉を育てることで、将来の健康な歯並びをサポートする有効な方法の一つです。
もし、お子さまの歯並びが気になる場合や、予防的なアプローチに興味がある場合は、まずは小児歯科や矯正歯科の専門医に相談してみてください。
専門医は、お子さまの成長段階や口腔内の状態を詳しく診査し、チューブトレーニングが適しているかどうか、他の治療法が必要かどうかを判断してくれます。
早期からの適切なアプローチにより、将来的な矯正治療の負担を軽減できる可能性もあります。
お子さまの笑顔と健康のために、今日から一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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